あいさつ

 「広島の医学物理チームが世界の放射線治療をリードするために」

広島大学 大学院 放射線腫瘍学           
広島大学病院 放射線治療科 名誉教授 永田 靖     

近年の放射線治療技術の進歩は、手術に匹敵する高い精度の放射線照射を可能とし、根治治療に占める役割が増してきました。また 最近のX線CTやMRIを初めとする画像診断技術の発達と、コンピュータ技術の進歩は、従来の放射線治療に大きな変革をもたらしました。特にCT、MRI画像が日常的に放射線治療計画に用いられるようになったため、またFDG-PET等の機能画像の臨床導入によって、癌が実際に存在する場所がより正確に把握することが可能となりました。一方では、CT画像を再構成することで得られた3次元画像を元に、生体内の正確な3次元線量分布計算が可能となり、より高精度の放射線治療計画が可能となりました。 また機械工学の進歩により肺癌や肝臓癌に対する定位放射線照射(ピンポイント照射)、前立腺癌・頭頸部癌・脳腫瘍を対象とした強度変調放射線治療や画像誘導放射線治療などの種々の治療技術が編み出されてきました。   

これらの高精度照射法や高精度照射装置のいくつかは、わが国でオリジナルに開発されたものであり、わが国の放射線治療技術は、世界の最先端を走ってきたものと思っております。そしてこれらの技術開発はメーカーと臨床医だけでは、なしえなかったものであり、私は多くの医学物理士の皆様のお世話になってきました。まず1985年から京都大学病院において、島津製作所、日本電気とともにCTシミュレータの開発に携わり、このプロジェクトには医学物理士の西台武弘先生には大変お世話になりました。その後は、肺癌に対する体幹部定位放射線治療の技術開発、臨床応用、JCOG0403臨床試験に従事し、この時には、医学物理士である成田雄一郎先生や大阪大学保健学科出身の中村光宏先生、宮部結城先生、松木君、石原君、伊東君、らと一緒に研究してきました。その後私が2008年に広島大学に異動してからは、2012年4月より小澤修一先生に放射線治療連携講座准教授として広島の医学物理部門および医学物理士認定コースとしての大学院医学物理士コースの基礎を構築してもらいました。小澤先生は2016年に広島がん高精度放射線治療センター(HIPRAC)に異動し、三浦英治先生や中尾稔先生らと共にその医学物理部門を構築してもらっています。2015年4月には西尾禎治先生がフェニックス特任教授として国立がんセンター東病院より着任され、大学院生の数も次第に増えてきました。齋藤明登先生は2015年より主に臨床部門での品質管理とデジタル化で活躍しています。河原大輔先生は2019年より現在の放射線治療医学物理部門を支えてくれています。河原先生のAI(人工知能)に関連した研究は、学内外の評価も非常に高く、AI研究目的で入学する大学院生も増えています。

 広島県には、優秀な放射線腫瘍医がたくさん活動しており、日本放射線腫瘍学会の専門認定医の数でも中・四国地方では最多です。 しかし放射線治療は放射線腫瘍医だけではなく、医学物理士、診療放射線技師、看護師、事務クラークの連携したチーム医療が非常に重要です。世界最高水準の放射線治療チームの育成のために6年間のプロジェクトが進行中で医学物理士の三木健太郎先生が2021年春まで専任してくれていました。私どもは是非、若い医学物理士の育成にも努力して参りたいと思っております。

医学物理士の国家資格化は、日本放射線腫瘍学会の大きな目標ですが、私はその実現のために最大限の努力を惜しみません。そのためにも、広島発医学物理研究の推進を祈念しております。

最後に、2022年11月10-12日には中国地区では初めての第35回日本放射線腫瘍学会が広島で開催される予定です。コロナ禍を克服した新しい時代の学会を模索してゆきたいと考えています。