教授あいさつ

教授あいさつ

広島大学 大学院 放射線腫瘍学           
広島大学病院 放射線治療科 教授 村上 祐司     

近年の放射線治療技術の進歩は目覚ましく、ここ20年のあいだに驚くべき進化を遂げました。私が医師になった当初は、X線フィルムに赤鉛筆で標的や照射野を描き、手計算で線量を算出する2次元照射が標準的な治療法でしたが、その後の3次元原体照射技術の登場で、放射線治療の世界は一変しました。我々が思い描いていた照射線量の標的への集中と周囲正常臓器への照射線量の低減を達成することが可能な技術がどんどん開発されていきました。ミリメートル単位での位置照合、多軸からのビームによる体幹部定位照射、マルチリーフコリメーターを可変とし緻密に計算された不均一な線量を多方向から投与することで自由度の高い線量分布を達成する強度変調放射線治療(IMRT)、さらにガントリーの回転速度、線量出力をも可変としてより効率的にIMRT照射を行う強度変調回転照射の登場は、私にとって驚愕の出来事でした。本当にすごい放射線治療の時代が来たなと実感しています。

 放射線治療を支える学問には放射線腫瘍学、放射線生物学と並んで放射線物理学があります。放射線物理学は、レントゲン博士がX線を発見して以来、放射線医学の進歩に大きく貢献してきました。先に述べた高精度放射線治療技術の開発は医学物理士なくしてはなしえなかった所業です。我々が携わる高精度放射線治療計画と品質管理において医学物理士は大きな役割を担います。私は、放射線腫瘍医と医学物理士が緊密に連携し、協働することで、緻密かつ精密な治療を可能にしていると考えています。互いに切磋琢磨し、よりよい治療を患者さんに提供する精神が非常に重要と考えています。

 医学物理研究は医学物理士の本道です。広島大学においても多くの医学物理研究を行い、その成果を世界に発信しています。その内容は、照射技術関連、計画技術関連のみならず画像解析と人工知能を駆使した研究まで幅広く、学内外から非常に高い評価を得ています。本学の大学院医系科学研究科放射線腫瘍学講座には医学物理コースを設置しており、将来、医学物理士を目指す多くの学生を迎え入れています。広島のみならず日本中からの入学を歓迎します。そして、世界水準の研究力、教育力、臨床力を身に着けてもらいたいと思います。 本学の物理研究力は日本でも有数です。医学物理士を目指す学生、物理研究力を身に着けたい学生の皆さんはぜひお声掛けください。

最後に、広島大学医学物理グループの、現状に満足せず、常に新しい研究を模索し、推進していく力は頼もしく、誇りに思います。広島発の医学物理研究のさらなる発展を祈念しています。