5/31~6/4の5日間シカゴでASCO 2023 Annual Meetingが開催されました。ASCOは臨床腫瘍学の学会で、毎年将来の臨床を変えるような大きなstudy結果の発表が行われます。今年は残念ながら参加できませんでしたが、Twitterを中心に情報収集を行っておりました。ちなみに、ASCOで演題が採択されるとAbstractがJCO (2021 IF: 50.7) にSupplementとして掲載されます。中にはAIや機械学習を用いた演題もあるため医学物理士としても採択を目指したい学会の一つでもあります。
今回印象に残った演題はADAURA試験のOS解析結果です。ADAURA試験は、病理病期IB~IIIA期のEGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対する、術後補助療法としてのオシメルチニブ (EGFR-TKI) の有用性を検証する国際共同第Ⅲ相無作為化比較試験で、無病生存期間 (DFS) の有意な延長はこれまでの結果で示されていました。問題はOSまで延長させるかということで、OSの結果が分かるまでは昨年の肺癌診療ガイドラインのupdateでも推奨度決定不能となっていました。これまでEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者に対するEGFR-TKIによる術後化学療法では、OSの延長を示した無作為化試験の結果は報告されていないことから、本試験の結果は世界中で注目を集めていました。
最終的に、オシメルチニブ群に339例、プラセボ群に343例が登録され、日本人も各群に50例程度含まれています。2023年1月27日時点でのOS追跡期間中央値はプラセボ群56.2ヵ月、オシメルチニブ群59.9ヵ月で、OSのmaturityは21%となっています。結果として、OS中央値はいずれの群においても未到達ですが、プラセボ群に対するハザード比は0.49で、統計的有意差が認められ、世界中に大きなインパクトを与えました。おそらくこの試験の結果をもって、今年の肺癌診療ガイドラインは改訂されると思われます。本試験の結果は本発表が行われた6/4にNEJM誌にも掲載されています。
昨今、肺癌の周術期治療の発展は目覚ましいですが、他癌種に比べるとまだまだ十分な予後は期待されません。我々アカデミアは少しでも患者の予後を改善できるような研究を行い、最終的に成果を社会実装する責任を有していると考えています。
博士課程3年 Y.M