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強度変調放射線治療

はじめに

 強度変調放射線治療(IMRT:Intensity Modulated Radiation Therapy)とは、外部照射の一手法で、最新のコンピュータ技術を駆使した治療法です。専用コンピュータによる最適化計算により、照射装置から放射線が出る部分の形状を特殊な方法で段階的に変化させながら照射する治療法です。この技術により、腫瘍への投与線量の増加と、近接する正常組織の線量低減が可能となりました。例えば、前立腺癌では、前立腺の照射線量増加による治療成績向上と、近接する正常臓器(直腸など)への照射線量低減による有害事象の軽減が同時に期待できます。また、頭頚部癌では、治療後長期にわたり問題となっていた唾液腺への照射に伴う唾液分泌障害の軽減が期待できます。
 前立腺癌に対する従来の治療法(三次元原体照射)とIMRTによる線量分布の違いを示します。三次元原体照射(左)では、前立腺に高線量を集中できていますが、直腸の前壁にも高線量が照射されてしまいます。一方、IMRTでは前立腺に高線量を集中でき、しかも直腸前壁の線量の軽減が達成されています。

このように、標的に近接する正常臓器に対する線量軽減を達成しつつ、標的への線量増加をも可能にする治療がIMRTなのです。

IMRTの実際

[固定具]

 IMRTでは、標的となる腫瘍や保護すべき正常臓器への投与線量を厳密に規定しており、治療体位のわずかなずれが治療結果に影響する可能性があります。そのため、IMRTでの体の固定は非常に重要であり、下に示すような特殊な固定具を使用します。(図左は、頭頂から肩までを固定する頭頚部領域用のプラスチックマスク、図右は腹部から骨盤を固定する前立腺癌用の固定具。)

 

[位置合わせ]

 当院でIMRTに使用している放射線治療装置には、位置併せのために用いるkv-X線撮影装置が設置されており、治療台上で、X線写真とCT撮像が可能となっています。治療直前にこれらを撮像し、治療計画時の写真と照合し、計画時の位置とのずれ値を算出し、ずれ値分の治療台移動を行い、正確な位置補正を行った上で治療を行っています。

[どのように強度変調するのか]

 現代の放射線治療装置の照射口には、Multi-Leaf Collimator(MLC:多段階絞り装置)と呼ばれる遮蔽装置が設置されています。このMLCを使用することで、放射線を照射する範囲(照射野)を標的の形に整形し、不要な部位への照射を避けた治療を行うことができます。従来の治療では、このMLCは放射線照射中に動くことはありませんでしたが、IMRTではMLCを放射線照射中に細かく動かすことによって、照射範囲内の治療強度を変えた最適な線量分布を作り出します。下図は前立腺癌の五方向からの照射の例です。各方向からの照射範囲を示していますが、その範囲内の色調の違いが照射線量の違いとなります。

では、どのようにしてこのような不均一な放射線照射を行っているのでしょうか。いくつか手法がありますが、ここでは代表的な二つの方法をお示しします。

(1)Step and shoot法

複数の形状の照射野を組み合わせて照射するもので、X線照射時 にはMLCは静止しています(そのため、Static MLC法とも呼ば れます)。前立腺癌治療例でのMLCの動きを動画で示します。

(2)Sliding Window法

MLCを連続的に移動しながら照射するもので、MLCの開放とその 時間で強度を変調します。X線照射中、MLCは連続的に移動する ので、Dynamic MLC法とも呼ばれます。上咽頭癌治療例でのM LCの動きを動画で示します。

最新の強度変調放射線治療

Volumetric Modulated Arc Therapy (強度変調回転照射:以下VMAT)
 VMATとは、IMRTの進化形であり、IMRTでは放射線照射時にはガントリー(照射筒)は静止していますが、VMATではガントリーを回転しながら、また放出するX線の量を加減しながら治療を行います。上咽頭癌治療例でのMLCの動きを動画で示します。

 本治療法の利点は、IMRTと同等〜より良好な線量分布を達成しつつ、治療時間の短縮が可能となることです。治療時間の短縮は、治療台上での患者さんの体動や体内での病変の動きの影響を軽減することができますし、1日あたりの治療可能人数増加により治療までの待機時間の短縮にもつながります。