教授 永田 靖
私は、がんの治療医を目指して医学の道へ進みました。医学部における進路決定の契機となったのは、京都大学の阿部光幸放射線腫瘍学教授の放射線治療の講義を聞いた時に、「切らずにがんを治せる放射線治療が将来の有望な治療」であると考えたからです。またがん治療専門医として、頭の先から足の先まで、小児から高齢者まで、早期から進行期まで多彩ながんを扱うことに大きな魅力を感じたからです。
現在米国では年間200名の放射線腫瘍医の定員があり、非常に狭き門であるようです。各大学のトップレベルの学生しか、放射線腫瘍医の進路が選択できないようです。これは、放射線腫瘍学の持つ将来性を、米国医学生が高く評価しているからです。
残念ながら、我が国には放射線腫瘍学を十分に研修できる大学は少ない状況です。その中で広島大学には世界一流の放射線腫瘍医を育てる熱意にあふれたスタッフが充実しております。君たちも進路選択の時に、是非まず放射線治療の講義を聞いて、それから自分で判断して放射線腫瘍学を選択してほしいと思っています。
放射線腫瘍学は、最新の放射線治療装置を駆使して、がんを根治させるための技術を磨く、最先端の診療部門です。他方では、多くのがん患者さんと信頼関係を構築する必要があり、高いコミュニケーション能力の要求される非常に人間くさい診療部門でもあります。このように非常にやりがいのある診療部門ですので、是非ガッツのある医師を求めています。
毎年8月には中・四国の他大学とも共同で、一泊二日の「中・四国放射線治療夏季セミナー」を開催しています。また全国的には医学生・研修医セミナーも開催されています。医学部4,5,6回生で放射線腫瘍学に関心の高い学生や進路未定の研修医は一度参加してみてください。特に、がん患者の臨床的ケアに関心の高い人、治療装置や計画コンピュータに関心のある人、細胞や遺伝子を用いた生物実験に関心のある人、臨床試験に関心の高い人、種々の事情で都市を離れて勤務できない人、放射線被曝の心配な人、などは放射線腫瘍学を検討してみてください。
教室で行っている研究
我々が教室で行っている研究は以下のようなものです。
1. 高精度放射線治療技術の開発
2. 体幹部定位照射技術の開発とその臨床応用
3. 強度変調放射線治療の基礎的,臨床的検討
4. 画像誘導放射線治療装置の開発
5. 四次元照射法の開発
6. 三次元的小線源治療法の開発
7. 緩和医療における放射線治療意義の研究
8. 癌内部環境の画像的解明
9. 放射線生物学と放射線腫瘍学とのトランスレーショナルリサーチ
10.消化器癌(食道癌,直腸癌,膵臓癌)に対する化学放射線療法の確立
11.非密封小線源による新規癌治療法の開発
12.密封小線源治療を用いた口腔内癌に対する治療法の確立
13.悪性腫瘍を罹患した原爆被爆者に対する放射線治療の検証
我々は、医学物理士スタッフ、原爆放射線医学研究所の生物学スタッフ、広島大学病院の各診療科、県内連携がん専門病院、国内外放射線治療関連機器メーカー、等と連携し、またJCOG, JROSG, JMTO, HT-CARP等の種々の臨床試験グループに属し、臨床的基礎的研究を続けています。