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教授就任のあいさつ

広島大学大学院 医系科学研究科 放射線腫瘍学講座 教授就任のご挨拶

この度、2024年9月1日付で広島大学大学院医系科学研究科放射線腫瘍学講座の教授に就任いたしました。甚だ僭越ではございますが、この場をお借りしまして、謹んでご挨拶申し上げます。

私は愛媛県松山市出身で、私立愛光学園高等学校を卒業後、1988年に広島大学医学部に入学し、1995年に同医学部を卒業いたしました。同年、広島大学放射線医学講座に入局し、当時の伊藤勝陽教授のご指導のもと、広島大学病院、市立三次中央病院、安佐市民病院にて放射線診断および放射線治療に従事し、多くの経験を積む機会を得ました。この研修中に、放射線治療という分野に深い魅力を感じるようになり、2002年に広島大学に帰学した際、放射線治療を自らの専門分野とする決意を固めました。その後、放射線科専門医を取得し、2006年には放射線治療専門医を取得、翌2007年には「ポリマーゲル線量計の基礎的特性の評価」に関する研究で博士号を取得しました。それから現在に至るまで、広島大学において放射線治療に邁進し、今年で帰学後22年目を迎えますが、放射線治療に対する情熱は変わることなく、その奥深さに今もなお魅了され続けています。

この約30年間、放射線治療技術は驚くべき進化を遂げました。私が医師になった当初、X線フィルムに赤鉛筆で標的や照射野を描き、手計算で線量を算出する2次元照射が標準的な治療法でしたが、その後の3次元照射技術の登場には、驚きとともに感動を覚えたことを今でも鮮明に記憶しています。その後も、体幹部定位放射線治療(SBRT)、強度変調放射線治療(IMRT)、画像誘導放射線治療(IGRT)、適応放射線治療など、次々と新たな技術が導入され、私たちは、より精密に標的へ線量を集中させると同時に、正常組織への線量を低減する治療を可能にしてきました。これにより、放射線治療の効果と安全性が格段に向上し、多くの患者さんにこれらの高精度な治療を提供できるようになりました。しかし、その一方で、高精度放射線治療には高い緻密さと正確さが求められます。「神は細部に宿る」という私の好きな言葉がありますが、この精神こそが放射線治療の技術向上には不可欠です。私は今後も、この精神を持ち続けながら、最高水準の治療を患者さんに提供するべく、自らの技術を磨き続けるとともに、後進の先生方にもしっかりと伝えていく所存です。

日本における放射線治療医の不足は依然として深刻な問題であり、広島における放射線治療医の充足は私に課せられた大きな使命の一つです。永田前教授による放射線腫瘍学講座発足以降、着実に入局者数は増えているものの、いまだ十分とは言えません。これまで以上に、医学部生に対して放射線治療の重要性とその魅力を伝える教育を行い、入局者数の増加に努めてまいります。そして、広島全域における放射線治療の質の均てん化を図り、どの施設においても、最高水準の高精度放射線治療が提供できる体制の構築に尽力してまいります。大学は臨床の場であるだけでなく、研究・教育機関としての役割も担っています。これまで我々は、高精度放射線治療技術の開発や人工知能関連の研究、さらには広島大学原爆放射線医科学研究所の先生方との共同研究などを推進し、その成果を世界へ発信することに注力してまいりました。また、各診療科の先生方と協働して行うJCOGの臨床試験や国際的な治験にも積極的に参加し、放射線治療分野の研究を推進しています。大学院生や専攻医への研究指導にも力を入れており、単に学位を取得するだけでなく、研究を継続できるリサーチマインドを有する優れた研究者、教育者の育成に努めてまいります。

放射線治療は、がん治療の一翼を担う重要な治療法であり、臓器温存を目指した根治治療のみならず、手術の補助療法や緩和治療としても広く活用されています。特にチーム医療が重要な分野であり、大学病院内だけでなく、他施設の先生方や開業医の先生方、多職種スタッフとの密接な連携なくして放射線治療は成り立ちません。これからも、各職種の皆様との協働を通じ、より良い医療の提供に努めてまいりたいと考えています。

結びに、これまでご指導を賜りました諸先生方をはじめ、支えてくださったすべての方々に深く感謝申し上げます。今後とも広島大学における放射線治療の発展に尽力し、診療、教育、研究の向上に努めてまいります。引き続きご指導ご鞭撻を賜りますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。

広島大学大学院 医系科学研究科
放射線腫瘍学講座 教授
村上 祐司