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頭頸部がん

広島大学病院における頭頸部がんに対する“放射線治療”の特色

頭頸部がんに対する広島大学病院での放射線治療の特色

  • 広島大学病院では、年間約160人と多くの頭頸部がん患者さん(内照射も含む)の放射線治療を行っています。
  • 治療成績の向上と治療中および治療後の有害反応の軽減を目的に最先端放射線技術である強度変調回転照射(VMAT)をほとんどの症例で行っています。
  • 有害反応の予防や症状を軽減するために、多職種が連携して、口腔ケア、皮膚ケアなどの支持療法に取り組んでいます。
  • 耳鼻咽喉科・頭頸部外科および口腔外科とのカンファレンスにて、すべての患者さんの情報を共有し、最も有用と思われる治療法を検討し、各患者さんに提示し治療方針を決定しています。

強度変調回転照射VMATの積極的活用

  • 頭頸部領域は、発声、嚥下、呼吸、視覚、嗅覚、聴覚など日常生活において重要な機能を有する領域です。手術ではこれらの機能損失をきたし、また審美的にも大きな影響を受ける可能性があるため、放射線治療は頭頸部がん治療において重要な役割を担っています。
  • 強度変調回転照射VMATは、高精度放射線治療技術のひとつであり、照射する標的に線量を集中し、周囲の重要な正常臓器の線量を低減可能な技術です。頭頸部がんは周囲に非常に重要な正常臓器が多くあるため、このVMATが特に有用な病気です。広島大学病院は、頭頸部がんに対するVMATを国内でも先駆的に導入し、治療施行数も国内でトップクラスの施設です。
  • 広島大学病院では、根治を目的、あるいは術後の再発予防を目的とするほとんどの頭頸部がん患者さんに本治療を施行しています。
(図2)上咽頭がん症例: 腫瘍の存在している領域、腫瘍に隣接する転移のリスクが高い領域、転移を考慮し予防的に照射する領域に対し、毎回3段階の異なる線量を投与するように計画された症例。耳下腺、喉頭、口腔、頸髄など有害反応が危惧される部位への線量低減も達成されています。このように従来法では不可能であった高精度な照射がVMATでは可能となりました。
【トピック】頭頸部がんに対する支持療法

頭頸部がんの放射線治療中には、口腔・咽頭の粘膜炎、皮膚炎などの有害反応が時に重篤化することとなり、治療の中断や中止が必要となることがあります。また、治療前、治療中の口腔環境の不良は、肺炎を含む感染症や治療後の重篤な下顎骨壊死の原因となることもあります。そのため、治療前から治療中、さらには治療後の有害反応をコントロールすることはとても重要です。広島大学病院では、医師、歯科放射線科医、歯科口腔総合診療科医、外来・病棟看護師、診療放射線技師などからなる多職種チームで有害反応に対する支持療法に力を入れています。

(図左)皮膚ケアのパンフレット(図右)口腔ケアの説明書

頭頸部がんの治療成績改善を目指す臨床試験への積極的な参加

  • 頭頸部がんの治療成績は経時的に改善していますが、まだまだ満足のいくものではありません。広島大学病院では、将来の患者さんに貢献できるよう国内外で行われている臨床試験・治験に積極的に参加しています。
  • 対象となる患者さんには丁寧に説明をし、ご希望される場合に参加いただいています。

広島大学病院における頭頸部がんの治療方針

  • 進行度に応じて、手術療法、放射線治療、薬物療法(抗がん剤、分子標的薬、免疫療法)を、単独あるいは種々の組み合わせで施行します。
  • 治療方針は、外科医(頭頸部外科、口腔外科)、腫瘍内科医、歯科放射線科医とのカンファレンスにて一例一例しっかりと検討したうえで決めています。複数の治療法が考えられる場合には、丁寧に説明したのちに患者さんご自身に選択していただきます。

代表的な放射線治療を含む治療方針を以下に示します。

  1. 放射線単独治療
    早期の声門がん、咽頭がんなどで適応となります。
  2. 手術±術後化学放射線治療
    主に局所進行頭頸部がん・口腔がんに対して、まず手術を行い、手術の結果、再発リスクが高いと考えられる場合に、化学放射線治療(抗がん剤と放射線治療の組み合わせ)を追加で施行します。
  3. 根治的化学放射線治療
    手術を行うと大きな機能損失をきたすと考えられる場合、手術が適応となるが患者さんが手術より放射線治療を希望される場合に選択されます。治療後に腫瘍が残存した場合には、手術の施行を検討します。
  4. 導入化学療法+化学放射線治療または手術
    さらに進行した局所進行頭頸部がんに対して、強力な抗がん剤治療を先行し、その結果に応じて継続治療として化学放射線治療あるいは手術を選択し施行します。
  5. 緩和的(化学)放射線治療
    転移を有する患者さんの標準治療は薬物療法ですが、症状の緩和目的、機能損失の予防目的で化学放射線治療あるいは放射線単独治療を検討する場合があります。

広島大学病院における化学放射線治療の実際

放射線治療

  • 放射線治療の準備に用いるCT画像を撮像し専用のコンピュータに転送、コンピュータ上で照射する範囲や線量を決定します。
  • 放射線治療の線量や回数は病気の進行度や治療の目的によって異なります。
    ・根治目的の照射の場合は、通常1 日1 回、計35回(70グレイ)の照射を行ないます。
    ・術後治療の場合は、1日1回、計25~30回(50~60グレイ)の照射を行います。
  • 1 回の治療に要する時間は15 分程度で、実際に放射線を照射する時間は数分間です。

化学療法;

  • 放射線治療と併用する化学療法は、シスプラチンという薬を使用して、放射線治療中に3回施行します。シスプラチンの施行が難しい場合には、他の薬剤の使用が検討されます。
  • 導入化学療法では、ドセタキセル、シスプラチン、5-FUの三種類の薬剤による治療を通常2クール行います。

放射線治療の有害反応

  • 治療中~治療後早期に生じる有害反応
    のどや口内の粘膜炎、皮膚炎、口の渇き、味覚低下、脱毛など
  • 治療後数カ月以降に生じる有害反応
    口の渇き、味覚障害、甲状腺機能低下、末梢神経障害(まれ)、嚥下障害(まれ)、下顎骨壊死(まれ)など

広島大学病院における根治的化学放射線治療成績:5年生存率

  • 早期声門がん 90%以上
  • 下咽頭がん 早期 80%、進行期55%
  • 導入化学療法を施行した進行期(IVA-B)中下咽頭がん 57%
  • 上咽頭がん I-IVB期 85% (3年)

これらは、他施設からの報告と比較して同等以上の結果を示しています。また、VMATを使用することで重篤な有害反応の発症割合も低く抑えられています。

頭頸部がんと診断された方へ

頭頸部がんの治療方針は、施設により異なる場合があります。また、複数の選択肢がある場合もあります。頭頸部がんと診断された場合には、専門の医師の説明をよく聞き、十分に納得した上で、治療法を選択されることをおすすめします。

放射線治療が奏功した例

(図)早期声門がん: 放射線単独治療で腫瘍は完全に消失しました。
(図)進行期ののど(下咽頭)のがん: 非常に進行していたため、導入化学療法+化学放射線治療を施行しました。のどを充満しのどの構造を壊していた腫瘍は完全に消失し、のどの正常な構造も再生しています。