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肝臓がん|体幹部定位放射線治療(SBRT)の場合

はじめに

肝臓がん(原発性肝がん)の患者さんの多くはB、C型肝炎ウィルスの持続感染が原因と言われ、広島県をはじめとする西日本に患者さんが多いのが特徴です。
一般的に単発、あるいは少数個の肝臓がんの治療法は、手術(肝移植も含む)とラジオ波焼却(RFA)であり、それらの治療が困難な場合には、肝動脈化学塞栓療法(TACE)が考慮されます。
しかし、上記のような手術やRFAが困難とされる患者さんに対するTACEは有効な手段ではありますが、TACEのみで根治できるケースは限定的です。
広島大学病院では、そのような患者さんに対して、体幹部定位放射線治療を行っており、良好な治療成績を報告しております。
本稿では、肝臓がんに対する体幹部定位放射線治療について説明します。

広島大学病院における肝臓がんの体幹部定位放射線治療の実際

広島大学病院における肝臓がんの治療方針

  1. 単発あるいは少数個で、最大径が5cm 以内であること。
  2. RFAや手術が困難、あるいはそれらの治療を拒否された患者さん。
  3. TACE のみでは局所再発が予測される患者さん。
  4. 制御不能な腹水や肝性脳症のない、比較的肝機能の保たれた患者さん。
  5. その他、妊娠中である方など、一般的に放射線治療の適応とならない場合などは非適応となることがあります。その他、個々の患者さんの状況に応じて治療の適応を決めております。

広島大学病院における放射線治療の実際

体幹部定位放射線治療の概要

体幹部定位放射線治療とは、高精度な照射技術を用いた、体幹部の病変にピンポイントで放射線を照射する治療です。また、当院では、強度変調回転放射線治療(VMAT)を用いて、この体幹部定位放射線治療を行っています。強度変調回転放射線治療は、強度変調放射線治療(IMRT)を、回転照射技術を用いて行う照射法です。このため、正常組織への影響を低減し、さまざまな形状の腫瘍であってもその腫瘍の形に沿って、より集中的な定位放射線治療が可能となっています。

図 線量分布の1例

また、体幹部(肺、肝)腫瘍の場合、呼吸によって腫瘍の位置が変化する可能性があるので、病巣に狙いを定め正確に放射線を照射することが重要です。広島大学では呼吸状態を監視する装置を用いて、照射中に息を止めてもらうことで、より正確に照射する方法を開発し、既に実用化しています。

実際の治療スケジュール

固定装具の作成
治療を正確に行うための固定装具(図1)を作成します。

息止めの練習(図2)
呼吸を監視する装置を用いて、毎回同じように息を止めるように練習を行います。基本的には軽く息を吐いたところで止めて頂きます。

CT撮影
固定装具を装着したままCT撮影を行い、呼吸は息止めの練習と同じように止めます。CTでは腫瘍の位置を正確に把握するため、造影剤を使用させていただく場合があります。

治療計画
撮影したCTを治療計画装置に転送した後、最適な照射方向や線量分布を作成します。

放射線の治療(1回約20-30分)

  1. 位置の確認(コーンビームCTの撮影:図3)
    毎回の治療前に位置のずれがないかどうかを確認するため、下のような写真を撮影します。この時も治療時と同様に息を止めて行います。
  2. 治療開始
    位置の確認後、治療開始します。「息を止めてください」という合図があったら、治療計画の時と同様な息止めをして下さい。1回につき15~20秒程度止めて頂きます。これを数回繰り返し、1回の治療が終了します。
  3. 照射は平日のみ、1日1回で、計4(~8)回行います。
(図1)固定具
(図2)息止め練習
(図3)コーンビームCT

有害反応

  • 治療期間中または直後にはほとんど自覚症状はありません。
  • 一過性の肝機能低下
    治療前の肝機能にもよりますが、治療後数ヶ月で肝機能異常を認めることがあります。基本的には一過性です。
  • 血栓・胆管狭窄
    まれですが、肝臓の血管の中に血栓が生じることや、肝臓内の胆管が狭窄し炎症を起こすことがあります。
  • 肺炎
    腫瘍の部位によりますが、一部の患者さんでは肺が限局的に照射されるため、肺腫瘍の場合と同様に肺炎による症状を認めることがあります。

広島大学病院における放射線治療の成績

  • 広島大学病院で体幹部定位放射線治療を受けた、単発あるいは少数個の肝臓がん症例65例74部位の、5年の局所制御割合は100%であり、長期の経過観察においても良好な治療成績を確認しております。
  • 腫瘍の大きさがおおむね2cm以下と小型の肝臓がんが多いデータではありますが、肝臓がんに対する体幹部定位放射線治療の長期的なデータは貴重であり、手術やRFAが困難な肝臓がんに対する有効な治療方法と考えております。

肝臓がんと診断された方へ

肝臓がんの治療方針は、施設により異なる場合があります。また、個々の状態に応じて、複数の選択肢がある場合もあります。肝臓がんと診断された場合には、専門の医師の説明をよく聞き、十分に納得した上で、治療法を選択されることをおすすめします。