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名誉教授からのメッセージ

名誉教授 永田 靖

2023年(令和5年)3月をもって広島大学放射線腫瘍学講座を退任致しました名誉教授の永田靖です。私は1982年(昭和57年)に京都大学放射線医学講座に入局し、1986年(昭和61年)より京都大学大学院に入学し、その後は1年半の米国ミネソタ大学の留学を挟んで、約22年間京都大学放射線腫瘍学講座で、高精度放射線治療(CTシミュレータ等)の開発に従事してまいりました。2008年(平成10年)1月より広島大学病院放射線治療部教授として、2009年(平成11年)5月からは広島大学大学院放射線腫瘍学初代教授として、15年余にわたり放射線治療を担当させていただきました。その15年間には東北大震災による福島支援活動、広大病院新診療棟の開院、コロナ禍による種々の活動自粛、等の大きな出来事がありましたが、高精度放射線治療装置の開発、特に早期肺癌に対する体幹部定位放射線治療の開発と普及およびJCOG1408臨床試験の実現に成果をあげることができました。2015年(平成17年)には広島駅前に広島がん高精度放射線治療センターが開院し、そのセンター長も兼任させていただきました。放射線治療の集約化を目標に開設されたセンターですが、市内の約50%の乳がんや前立腺がんの患者さんが、各病院から紹介を受け外来通院されるようになっていること、またがん患者さんの中で放射線治療を選択される割合で広島県が全国一になったことも素晴らしいことと思っています。

さて放射線治療は、手術療法、抗癌剤治療とともに癌治療の3本柱として以前より重要な役割を果たしてきました。ただ従来は手術不能な患者さんに対する緩和目的の役割が大部分を占めていました。しかし近年の放射線治療技術の進歩は、手術に匹敵する高い精度の放射線照射を可能とし、根治治療に占める役割が増してきました。特に、手術と比較して「麻酔」や「切開」といった侵襲が少ないため、「がんを切らずになおす放射線治療」の意義が高まって参りました。実際の臨床現場においても、特に前立腺癌、食道癌、舌癌、喉頭癌、子宮頸癌、肺癌は早期であれば放射線治療単独で90%以上の局所制御が可能であり、手術と同等の治癒率が期待できるようになってきました。この中で舌癌に対する組織内照射は広島大学病院は国内では数少ない専門治療施設として歯科放射線科との連携で全国から患者さんが集まっています。

これらの高精度照射法や高精度照射装置のいくつかは、わが国でオリジナルに開発されたものであり、わが国の放射線治療技術は、世界の最先端を走っています。また広島大学病院は、これらの最先端治療技術の開発に積極的に取り組んでいます。近年は、これらの最先端技術を用いた臨床応用成果が報告されるようになり、具体的には肺癌を中心とした体幹部定位放射線照射や、前立腺癌や頭頸部癌を中心とする強度変調放射線治療において、期待すべき成果が見られています。広島大学が中心となり、国内60施設と協力して実施した早期肺癌に対する体幹部定位放射線治療のJCOG1408臨床試験は、世界的に注目されています。

現在までに広島県には、優秀な放射線腫瘍医、放射線治療技師の方がたくさん活動しており、日本放射線腫瘍学会の専門認定医の数でも中・四国地方では最多です。広島大学の研修体制は全国的に見ても高いレベルにあるといえます。しかし、昨今の急速なる放射線治療対象患者数の増加の状況下では、まだまだ放射線腫瘍医は不足していると言わざるを得ません。私どもは是非、若い医学生、初期研修医、放射線治療医、放射線治療技師の育成に努力して参りたいと思っております。広島大学には「医学物理士認定コース」としての博士・修士課程も設置されており、中・四国地区の医学物理学の教育・研究・診療をリードしています。

放射線治療科では、放射線治療のみならず、手術療法や薬物療法を理解した放射線腫瘍医を育成しています。私は常々患者さんに、「癌になったら必ず放射線腫瘍医に相談しなさい。」とお勧めしています。なぜなら放射線腫瘍は肺癌・乳癌・前立腺癌のみならずほとんどすべての癌の早期がんから進行がんまでを扱ってオールマイティーの癌治療医であるからです。私自身は癌治療がやりたくて医師になりましたが、臓器を限定した専門医にはならずに、すべての癌を扱う放射線腫瘍医になって大満足です。また今までにたくさんの若い医学生や研修医に放射線腫瘍医になることをお勧めして、感謝されています。研修医のみなさん、医学生のみなさんは、是非とも広島大学放射線腫瘍学を一度見学に来て、放射線腫瘍医のやりがいを実感してほしいと思います。