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口腔がん(イリジウム)

はじめに

舌がんの治療法は大きく分けて手術(切って治す治療)と放射線治療(切らずに治す治療)に分けられます。放射線治療では舌を切り取ることなく、そのままの状態で治療するので、形も機能も温存することができます。そのため、治療後も治療前とほとんど変わりなく生活することができます。

放射線治療には、体の外から放射線を照射する外部照射と、放射線を出す線源を病変に挿入する小線源治療(組織内照射)があります。小線源治療は 1960 年代にヨーロッパで確立された非常に確実性の高い放射線治療の方法のひとつです。広島大学病院放射線治療科では、昭和 50 年以前から舌がんの治療を行っており、全国でも数少ない経験豊富な放射線治療施設です。

当科では低線量率小線源(Au-198)と高線量率小線源(Ir-192)の2種類を用いており、腫瘍の状況から適切な線源を選択して治療を行っています。

本稿では、高線量率小線源(Ir-192)を用いた小線源治療について説明します。

広島大学病院における舌がん患者さんの高線量率小線源治療の実際

広島大学病院における舌がんの治療方針

1.腫瘍サイズ

腫瘍の大きさが4cm以内で、腫瘍の厚みが1cmを超えないもの、あるいは4 cm以上でも表在性の腫瘍が治療の適応となります。ただし、それらの基準に当てはまらなくても、治療の適応となる場合があります。

2.頸部リンパ節転移の有無

治療前の検査*で、頸部リンパ節転移の有無を確認します。頸部リンパ節転移を認める場合は手術を行うのが基本になりますので、舌腫瘍の治療も同時に手術での切除となります。

*治療までに必要な検査

  • 舌病変の病理検査
  • 局所および頸部の超音波検査
  • CTあるいはPET-CT
  • MRI
  • 血液検査
  • 上部消化管内視鏡検査
  • 喉頭内視鏡検査

3.全身状態

小線源治療は、局所麻酔が可能な方はすべて治療の対象となります。高齢の方や、心臓、肺、肝臓、腎臓などの病気のために全身麻酔を行うことができないと言われた方でも治療が可能な場合があります。

4.その他

妊娠中である方、口腔内に放射線治療歴がある方など、一般的に放射線治療の適応とならない場合などは非適応となることがあります。その他、個々の患者さんの状況に応じて治療の適応を決めております。

広島大学病院における放射線治療の実際

小線源治療の概要

今回説明する小線源治療はラルス(RALS : Remote after loading system)と呼ばれる治療機器を用いて治療します。治療機器内に格納されているイリジウム(Ir-192)という放射線を放出する金属を、アプリケータを用いて一時的に病変に留置し、内部から放射線を照射します。

図 ラルスと照射中の模式図

1回あたりの治療時間は概ね20分前後で、1日のうち、朝夕の2回照射を行います。全10回の照射で治療は終了します。総治療期間は1週間、入院から退院まではおおよそ2週間程度となります。

実際の治療スケジュール

入院1日目
照射を行う際に用いるスペーサーを作成します。スペーサーとは舌と下顎の間に一定のスペースを設けるための器具で、放射線治療による有害反応を軽減する目的で使用します。そのため、照射を行っている間のみ装着します。

図 スペーサー
マウスピースに似ており、歯や下顎骨と舌の間に入れて距離を離し、鉛ブロックを使用することで、下顎骨への照射線量が低減されるように工夫しています。固定を確実にするために歯を覆う構造になっています。

入院2日目以降(治療開始~終了まで)

  1. 経鼻胃管という、治療期間中に栄養と水分を摂取する管を留置します。
  2. 治療機器とチューブで連結するためのアプリケータを体内に留置します。 処置は局所麻酔で行います。
図 アプリケータ留置後
治療中は同アプリケータ内を線源が進み舌腫瘍に放射線が照射されます。
  1. CT画像を撮像します。このCT画像を用いて、患者さんごとに最適な放射線治療計画を作成します。
図 線量分布の1例
  1. 前日に作成したスペーサーを装着したうえで、初回治療を行います。
    治療時間は概ね20分程度です。照射中、放射線による熱感や痛みはありません。
    初回治療の翌日から朝夕の1日2回、同様に照射を行います。
    10回目の照射終了後に、アプリケータと経鼻胃管を抜去します。

入院12-15日目
しばらく治療後の経過を確認します。問題なければ退院可能です。

有害反応

  • 疼痛
    アプリケータの留置により痛みが生じますので、適宜、鎮痛薬で対応します。
  • 出血
    アプリケータを抜去するときに出血することがありますが、圧迫止血で対応できることがほとんどです。
  • 感染
    治療期間中は自分で口腔内を清潔にすることが困難ですので、創部感染リスク低 減のため、歯科医師に口腔内の衛生環境について診察してもらっています。また、感染予防に抗生剤の点滴も行います。
  • 口内炎
    退院後1~2週目に腫瘍のあった部分の舌を中心に炎症が生じます。しばらくすると改善しますが、痛みが強い場合は鎮痛薬を使用します。
  • 潰瘍
    放射線が照射された部位に、粘膜の潰瘍が生じることがあります。数カ月で自然軽快することが多いです。
  • 下顎骨骨髄炎
    当院ではスペーサーを使用して、下顎骨への照射線量が低減されるように工夫していますので、発生する可能性は極めて低いです。もしも下顎骨骨髄炎が生じた場合は、歯科医師と共に対応します。

舌がんに対する小線源治療の効果

広島大学病院における放射線治療の成績

1994年から2015年の間に広島大学病院で小線源治療を受けた、初診時にリンパ節転移のない早期舌がん症例279例の、5年と10年の局所制御割合は、それぞれ89 %と86%で、長期の経過観察においても良好な治療成績を確認しております。

舌がんと診断された方へ

舌がんの治療方針は、施設により異なる場合があります。また、個々の状態に応じて、複数の選択肢がある場合もあります。舌がんと診断された場合には、専門の医師の説明をよく聞き、十分に納得した上で、治療法を選択されることをおすすめします。