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脳腫瘍

広島大学病院における脳腫瘍に対する“放射線治療”の特色

脳腫瘍に対する広島大学病院での放射線治療の特色

  • 脳腫瘍には脳から発生する原発性脳腫瘍と体のがんが脳に転移する転移性脳腫瘍があります。広島大学病院では広島がん高精度放射線治療センター(HIPRAC)と連携して原発性脳腫瘍及び転移性脳腫瘍に最新の放射線治療技術を提供しています。
  • 原発性脳腫瘍は希少疾患のひとつであり、治療には専門的な技術や知識が必要ですが、当院では広島県内及び近隣の地域から多くの患者さんをご紹介頂き、年間多数の原発性脳腫瘍患者さんの治療を行っており、豊富な治療経験を有しています。
  • 原発性脳腫瘍や転移性脳腫瘍患者さんの治療において、治療後の有害反応の軽減を目的に全国に先駆けて「強度変調回転放射線治療 VMAT」を導入し、最先端の照射技術を駆使した治療を行っています。
  • 少数個の転移性脳腫瘍の患者さんでは、広島がん高精度放射線治療センター(HIPRAC)において転移病巣に集中的に放射線を照射する「ピンポイント照射」を行っています。

原発性脳腫瘍に対する強度変調回転放射線治療 VMATの積極的活用

原発性脳腫瘍の患者さんに対して当院ではVMATを積極的に活用しており、放射線治療の有害反応として問題となりうる正常な脳・脳幹・視神経・内耳・眼球・水晶体などの臓器の放射線量の低減を図っています。

原発性脳腫瘍に対する強度変調回転放射線治療(VMAT)の1例。特に小児/若年者で問題となる聴力障害のリスクを低減するため内耳へ照射される放射線量の低減を図っています。
原発性脳腫瘍に対する強度変調回転放射線治療(VMAT)の1例。放射線により機能障害が生じるリスクがある脳幹へ照射される放射線量の低減を図っています。

転移性脳腫瘍に対する同時ブースト全脳照射

  • 転移性脳腫瘍で転移病巣の数が多い場合には、脳全体に10-15回の放射線治療を行った後に、引き続いて大きな転移病巣に限局した放射線治療(ブースト照射)を行うことがあります。ブースト照射においては治療する腫瘍の数が多い場合には、治療時間が長くなることや、腫瘍の周囲の正常の脳にも放射線が多くあたってしまうことがあります。
  • 広島大学病院ではVMATの技術を活用することで、患者さんの状況や転移病巣の部位、性状に応じて、全脳照射とブースト照射を同時に行う同時ブースト全脳照射を行っています。これによりブースト照射の時間短縮、病巣の周辺の正常な脳への放射線量の低減が可能になります。
転移性脳腫瘍に対する強度変調回転放射線治療(VMAT)を用いた同時ブースト全脳照射の1例。脳全体に照射しながら腫瘍病巣により高い線量の放射線を同時に照射しています。

海馬を温存した小細胞肺がんの予防的全脳照射

  • 限局型の小細胞肺がんで化学放射線療法によりからだの病巣が消失した場合、脳転移の発症予防を目的に脳全体に放射線を当てる全脳照射を行います。
  • 当院ではVMATの技術を活用することで、海馬という認知機能に重要な部位の線量を低減させながら脳全体に放射線を投与することが可能となっています。

少数個の脳転移に対するピンポイントの放射線治療:定位放射線照射 STI

  • STIとは、高精度な照射技術を用いた、ピンポイントで1回に大線量の放射線を照射する治療です。正常細胞への影響を最小限に抑えて、病巣だけを集中的に攻撃します。
  • 広島がん高精度放射線治療センターでは、強度変調回転放射線治療(VMAT)を用いて、この治療を行っています。このため、従来よりも正常組織への影響を低減し、さまざまな形状の病巣であってもその腫瘍の形に沿って、より集中的な定位放射線照射が可能となっています。
  • 病変の個数が多い方でも、治療の効果を高めるために、全脳照射に引き続いてピンポイント照射を行うことがあります。
早期肺がんに対する体幹部定位放射線照射(SBRT)により線量分布図の1例

脳腫瘍の治療成績改善を目指す臨床試験への積極的な参加

  • 脳腫瘍の治療成績は近年向上を認めておりますが、まだまだ満足のいくものではありません。当院では将来の患者さんに貢献できるよう臨床試験に積極的に参加しています。
  • 国内ではJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)やJCCG(日本小児がん研究グループ)などの多施設臨床試験にも参加しております。
  • 対象となる患者さんには説明をし、ご希望があった場合には参加いただいております。

広島大学病院における脳腫瘍患者さんの治療の実際

広島大学病院における脳腫瘍患者さんの治療方針

  • 原発性脳腫瘍は、腫瘍のタイプにより、手術と放射線治療、抗がん剤を組み合わせて治療を行っています。
  • 手術と放射線を組み合わせて治療を行う場合は、まず手術を行い、術後の再発、再燃を抑える目的で放射線治療を行う事が一般的です。悪性の脳腫瘍の多くでは手術の後で放射線治療を行う事でその後の経過が改善されることがわかっています。手術の時に採取した組織(病理標本)や手術前後の画像から得られた情報をもとにして、どの部位に、どのように治療を行うのかをよく検討して、もっとも効果が 高く、有害反応が少ないと考えられる方法を決めます。手術後2-4週間程度経過した時点で治療を開始できるようにその少し前から準備を始めます。
  • 腫瘍のタイプによっては手術を行わずすぐに放射線治療を行ったほうが良い場合があります。その場合にはMRI、CTなどの画像診断を行い、すみやかに準備を始めます。
  • 転移性脳腫瘍では、脳全体に放射線治療を行う「全脳照射」、手術を行い術後の再発予防のために行う「術後照射」、手術を行わずに転移病巣に集中して1回大線量の放射線治療を行う「ピンポイント照射」があります。転移病巣の個数や大きさにより上記のうちふさわしい治療を患者さんごとに検討して治療を選択しています。ピンポイント照射では特殊な装置が必要なため、広島がん高精度放射線治療センターの最新の装置で治療をおこなっております。

広島大学病院における放射線治療の実際

放射線治療の準備

  • 放射線治療を行う場合には最初に治療中に頭部が動かないようにするためにプラスチック製のマスク(シェル)を作成します。ひとりひとり頭の形は異なりますので、特製のものを作成します。続いてシェルをつけたまま CT の画像を撮像します。
  • 少数個の脳転移に行うピンポイント照射では、より高い位置精度を確保するためシェルに加えて頭から肩にかけての型をとります。これにより日々の位置変化を最小限に抑えた上で放射線治療が可能となります。
  • CT の画像と治療前後の MRI の画像をもとにして、病巣部に集中して放射線を照射し、正常の脳組織をできるだけ守るように専用のコンピュータ (治療計画装置)を用いて放射線治療の計画をします。
  • 放射線治療の計画をする際には、三次元放射線治療、定位放射線照射、強度変調放射線治療などのさまざまな放射線照射方法のなかからそれぞれの患者さんにとって最も良い方法を検討します。
  • 放射線治療の準備に用いるCT画像を撮像し専用のコンピュータに転送、コンピュータ上で照射する範囲や線量を決定します。
シェルを用いた頭部固定の一例
赤矢印は頭部から上半身を支えるためのバックロック。黒矢印は位置照合用マーカー。

放射線治療の線量や回数

線量や回数は脳腫瘍の組織型、目的によって異なります。

  • 原発性脳腫瘍に対する放射線治療では通常1日1回、週5回、計13-30回の照射を行います。
  • 転移性脳腫瘍で脳全体に放射線治療を行う場合は通常1日1回、週5回、計 10-15回の照射を行います。
  • 少数個の転移性脳腫瘍にピンポイント照射を行う場合では通常1日1回、週1-5回、計 1-5回の照射を行います。

放射線治療に要する時間

  • 原発性脳腫瘍や脳全体への放射線治療を行う場合は、1回の治療に要する時間は10-20分程度です。
  • 少数個の転移性脳腫瘍にピンポイント照射を行う場合は、1回の治療に要する時間は20-30分程度です。

放射線治療の有害反応

  • 治療中、治療直後に生じる有害反応:頭痛、頭重感、吐き気、食欲低下、倦怠感、脱毛、中耳炎
  • 治療後数か月、数年して起こりうる有害反応:脳壊死、高次脳機能の低下、ホルモンの分泌低下(治療の部位や放射線の線量により症状は異なります。)

広島大学病院における放射線治療の成績

  • 原発性脳腫瘍では腫瘍のタイプにより治療成績が異なりますが、いずれのタイプにおいても、一般的な治療成績と比較して、当院では良好な治療成績が得られております。
  • 2015年~2018年に広島がん高精度放射線でピンポイント照射(STI)を施行した64例(124部位)の転移性脳腫瘍患者さんの治療成績を下記に示します。γナイフと比較して全く遜色のない良好な治療成績が得られています。
(久保ら、広島医学 73(3): p125-131, 2020)
  • 少数個の脳転移に対してピンポイント照射を行った方の1年局所制御率は91.5%でした。

脳腫瘍と診断された方へ

脳腫瘍の治療方針は、施設により異なる場合があります。また、複数の選択肢がある場合もあります。脳腫瘍と診断された場合には、専門の医師の説明をよく聞き、十分に納得した上で、治療法を選択されることをおすすめします。