食道がん
広島大学病院における食道がんに対する“放射線治療”の特色
食道がんに対する広島大学での放射線治療の特色
- 広島大学では、年間約50-60人と他施設と比較して多くの食道がん患者さんの放射線治療を行っており、豊富な治療経験を有しています。
- 照射技術の向上と化学療法併用により、治療成績は向上し、特に早期症例では、手術と同等の治療成績を示しており、臓器温存が可能な放射線治療の良い適応と考えています。
- 切除が可能な進行がんを有する患者さんでは、術後の再発抑止を目的に手術前に化学療法+放射線治療を行っています。
- 治療成績の向上と治療後の有害反応の軽減を目的に最先端の照射技術を駆使した治療「多方向からの3次元放射線治療」、「強度変調回転照射VMAT」を行っています。
食道がんに対する強度変調回転照射VMATの積極的活用
- 広島大学では、高精度照射技術である強度変調回転照射VMATを食道がん患者さんに積極的に施行しています。
- 頸部食道がん患者さんには原則全例に施行します。
- 胸部食道がん患者さんへのVMATは全国的にもいまだ施行している施設は少ないのが現状です。当院では他施設に先駆け、胸部食道がん患者さんへのVMATを導入しています。従来の照射法と比較して、治療後の有害反応の軽減が可能となるなど、本治療で明らかな利益が見込まれる患者さんを対象としています。
食道がんの治療成績改善を目指す臨床試験への積極的な参加
- 食道がんの治療成績は経時的に改善していますが、まだまだ満足のいくものではありません。広島大学では、将来の患者さんに貢献できるよう国内外で行われている臨床試験に積極的に参加しています。
- 対象となる患者さんには丁寧に説明をし、ご希望される場合に参加いただいています。
広島大学における食道がんの治療方針
進行度に応じて、内視鏡治療、手術療法、放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)が、単独あるいは種々の組み合わせで施行されます。
早期がん(浅い層)
浅い層にとどまる早期のがんでは、がんと周囲の粘膜だけを焼き切る内視鏡治療により高率に治癒が得られます。内視鏡治療後の組織検査にて想定より深い層までの進展を認めた場合や転移のリスクが高いと判定された場合には、手術あるいは放射線治療と化学療法の併用治療が必要となります。両者の治療成績は同等です。
早期がん(深い層)
内視鏡治療が適応とならないやや深い層まで進展した早期がんでは、潜在的なリンパ節転移の比率が高くなるため、手術あるいは放射線治療と化学療法の併用治療が適応となります。両者の治療成績は同等です。
切除可能局所進行がん
手術前に化学療法あるいは化学療法+放射線治療を行った後に手術を行う治療法が標準です。近年、食道の温存を目的に、化学療法+放射線治療を先行して行い、治癒が得られた場合には経過観察、治癒が得られなかった場合に手術を行う方法の良好な治療成績が報告されました。
切除困難な局所進行がん
薬物療法+放射線治療が標準治療です。現在、強力な化学療法を用いることで手術困難な状況を手術可能な状況にして手術を行う治療法の有用性を調べる臨床試験が行われています。
臓器転移のある進行がん
薬物療法が主体です。従来の抗がん剤治療をまず行いますが、抵抗性である場合には免疫療法が適応となります。臓器転移がある場合でも、食道狭窄やがんによる疼痛に対して症状をとるための放射線治療を行うことがあります。
広島大学における化学放射線治療の実際
放射線治療
- 放射線治療の準備に用いるCT画像を撮像し専用のコンピュータに転送、コンピュータ上で照射する範囲や線量を決定します。
- 放射線治療の線量や回数は目的によって異なります。
根治的照射の場合
通常1 日1 回、計30-33 回の照射を行ないます。最初の20 回はリンパ節領域を含む予防的照射を行い、以降は可視病巣に限局して照射します。
術前治療の場合
1日1回、計20回の照射を行います。 - 1 回の治療に要する時間は10-15 分程度で、実際に放射線を照射する時間は数分間です。
VMATは、高精度放射線治療技術のひとつであり、照射する標的に線量を集中し、周囲の重要な正常臓器の線量を低減可能な技術です。食道がんに対する強度変調放射線治療は、頸部食道においては広く用いられていますが、胸部食道に導入している施設は本邦でも限られます。広島大学は、先駆的にVMATを胸部食道がんに導入を行った施設です。従来法と比較して明らかにVMATの利点が活かせる患者さんに対して本治療を積極的に使用しています。
化学療法
- 化学療法は、通常、シスプラチンと5FUという薬を使用して、投薬期間4日間を1クールとして、放射線治療中に2クール施行します。
- 進行がんの場合には、治療終了後に2クールの追加を行います。
放射線治療の有害反応
- 治療中に生じる有害反応:食道炎、皮膚炎
- 治療後1-3カ月で生じる有害反応:肺臓炎
- 治療後数カ月以降に生じる有害反応:胸水貯留、心嚢水貯留
広島大学における根治的化学放射線治療成績:5年生存率
- 早期食道がん 86%
- 切除可能局所進行食道がん 57%
- 切除不能局所進行食道がん 20%
これらは、他施設からの報告と比較して同等以上の結果を示しています。
食道がんと診断された方へ
食道がんの治療方針は、施設により異なる場合があります。また、複数の選択肢がある場合もあります。食道がんと診断された場合には、専門の医師の説明をよく聞き、十分に納得した上で、治療法を選択されることをおすすめします。