肺がん
広島大学病院における肺がんに対する“放射線治療”の特色
肺がんに対する広島大学病院での放射線治療の特色
広島大学では、年間多数の肺がん患者さんの放射線治療を行っており、豊富な治療経験を有しています。
肺がんは従来死亡率が比較的高く難治がんとされておりますが、近年では照射技術や分子標的治療薬、免疫療法を含む薬物療法などの進歩により、治療成績の向上が得られています。
早期肺がんでは、放射線をピンポイントで照射する、「体幹部定位放射線治療 SBRT」により、高齢や合併症のある患者さんでは手術と同等の治療成績が示されています。
治療成績の向上と治療後の有害反応の軽減を目的に全国に先駆けて「強度変調回転放射線治療 VMAT」を導入し、最先端の照射技術を駆使した治療を行っています。
近年では放射線治療と免疫療法の両者を併用することで、治療の効果が高まる可能性があると期待されており、研究が盛んに行われております。当院では、体幹部定位放射線治療とデュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)を併用する国際的な臨床試験、「PACIFIC-4試験」に参加しております。
III期非小細胞肺がん患者さんの根治的化学放射線療法後にデュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)という免疫療法を追加することで治療成績が改善することが実証され、肺がんの治療が大きく前進しました。
当院でも上記治療を呼吸器内科と連携して行っております。
早期肺がんに対するピンポイントの放射線治療;体幹部定位放射線治療 SBRT
- SBRTとは、高精度な照射技術を用いた、ピンポイントで1回に大線量の放射線を照射する治療です。正常細胞への影響を最小限に抑えて、病変だけを集中的に攻撃します。
- 当院では、強度変調回転放射線治療(VMAT)を用いて、この治療を行っています。このため、従来よりも正常組織への影響を低減し、さまざまな形状の病変であってもその腫瘍の形に沿って、より集中的な定位放射線治療が可能となっています。
- JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)が行っている臨床試験である、JCOG1408試験「早期非小細胞肺がんに対する体幹部定位放射線治療線量増加ランダム化比較試験」において当科は研究代表・事務局を務めており、中心的な役割を果たしております。
- の研究は定位放射線治療における標準的な線量42 Gy(グレイ)/ 4分割に対して試験治療55 Gy / 4分割が有効かどうかを検証するものです。現在、全国の多数の施設に参加して頂き、この試験を進めております。
- この試験に関心があり、ご協力して頂ける場合はご自身の担当医を通じて当科まで一度相談頂ければと存じます。
局所進行肺がんに対する強度変調回転放射線治療 VMATの積極的活用
早期肺がんに加え、局所進行の非小細胞肺がん患者さんに対しても、当院ではVMATを積極的に導入しており、放射線治療の有害反応として問題となりうる正常な肺・心臓・食道・脊髄などの臓器の放射線量の低減を図っています。
海馬を温存した小細胞肺がんの予防的全脳照射
- 限局型の小細胞肺がんで化学放射線療法により病変が消失した場合、脳転移の発症予防を目的に脳全体に放射線を当てる全脳照射を行います。
- 当院ではVMATの技術を活用することで、海馬という認知機能に重要な部位の線量を低減させながら脳全体に放射線を投与することが可能となっています。
肺がんの治療成績改善を目指す臨床試験への積極的な参加
- 肺がんの治療成績は近年向上を認めておりますが、まだまだ満足のいくものではありません。当院では将来の患者さんに貢献できるよう臨床試験に積極的に参加しています。
- 先ほどご紹介したJCOG1408、PACIFIC-4試験以外にも、国内ではその他のJCOGやJROSG(日本放射線腫瘍学研究機構)などによる他施設共同医師主導臨床試験、また国際的な臨床試験にも参加しております。
- 対象となる患者さんには説明をし、ご希望があった場合には参加いただいております。
広島大学病院における肺がんの治療の実際
広島大学病院における肺がんの治療方針
- 肺がん治療の基本となるのは手術療法、薬物療法(免疫療法)、放射線治療であり、単独あるいは種々の組み合わせで治療が行われています。
- 治療方針は組織型(顕微鏡で分かる悪性腫瘍の”顔つき”)と進行病期によって変わります。まず、組織型は非小細胞肺がんと小細胞肺がんに大きく分類され、治療の内容は両者で異なります。また、進行病期には早期のⅠ期から進行したⅣ期まであります。いずれにおいても放射線治療の役割は非常に大きなものとなっています。
進行病期 | 病気の広がり |
---|---|
Ⅰ期 | 病変が肺に限局している |
Ⅱ期 | 病変が肺と近くのリンパ節にある |
Ⅲ期 | 病変が大きい、または遠くのリンパ節に転移している |
Ⅳ期 | 遠隔転移がある |
非小細胞肺がんの根治的治療
根治を目的とした放射線治療の適応となるのは、高齢・合併症があるために手術ができないもしくは手術を希望されないⅠ-Ⅱ期の早期がんや手術が困難なⅢ期の局所進行がんの患者さんとなります。局所進行がんの場合、化学療法を併用するのが標準治療となります。
小細胞肺がんの根治的治療
根治を目的とした放射線治療の適応となるのは限局型(がんは片側の肺と所属のリンパ節にとどまっている)の患者さんとなります。小細胞肺がんは化学療法への感受性が高いことから通常は化学療法を併用致します。また、限局型で化学放射線療法により病変が消失した場合、脳転移の発症予防として、予防的全脳照射を行います。
再発および遠隔転移のある非小細胞肺がんおよび小細胞肺がん
遠隔転移のあるⅣ期の場合でも、がんにより症状が出ている部分にだけ、症状を和らげる目的で放射線を照射することがあります。骨への転移による痛みや脳への転移によるいろいろな症状に対する放射線治療が代表的です。
広島大学病院における放射線治療の実際
放射線治療の準備
- 放射線治療の準備に用いるCT画像を撮像し専用のコンピュータに転送、コンピュータ上で照射する範囲や線量を決定します。
- 呼吸によって病変の位置が大きく変化する可能性がある場合、狙いを定め正確に放射線を照射することが重要です。広島大学では呼吸状態を監視する装置を用いて、照射中に息を止めてもらうことで、より正確な照射を行っています。
放射線治療の線量や回数
線量や回数は肺がんの組織型、目的によって異なります。根治を目的とした照射の場合、
- 早期肺がんの定位放射線治療では通常1日1回、週4回、計 4回の照射を行います。
- 局所進行非小細胞肺がんでは通常1日1回、週5回、計 30-35回の照射を行います。
- 限局型小細胞肺がんでは通常1日2回、週10回、計 30回(約3週間)の照射を行います。最初の20回はリンパ節領域を含む予防的照射を行い、以降は可視病巣に限局して照射します。
- 限局型小細胞肺がん治療後の予防的全脳照射では通常1日1回、週5回、計 10回の照射を行います。
放射線治療に要する時間
1回の治療に要する時間は15-30分程度で、実際に放射線を照射する時間は数分間です。
化学療法の併用
非小細胞肺がん、小細胞肺がんともに、呼吸器内科医と連携して患者さんに最も適した化学療法を使用しています。適切な化学療法の同時併用により局所制御率の向上のみならず、遠隔転移の制御も目指します。
放射線治療の有害反応
- 治療中に生じる有害反応:食道炎、皮膚炎、肺臓炎(まれ)
- 治療後 1-3カ月で生じる有害反応:肺臓炎
- 治療後数か月、数年して起こりうる有害反応:肺機能の低下、食道狭窄(まれ)、腕神経障害(まれ)、脊髄炎(極めてまれ)、二次がん(極めてまれ)など
広島大学病院における放射線治療の成績
当院では下記のような良好な治療成績が得られています。
- I 期非小細胞肺がんの定位放射線治療の成績は、3年局所制御率(病変をコントロールできた割合)は82.5%、3年全生存率 78.5 %でした。
- 化学療法を併用して放射線治療を行なったⅢ期の局所進行非小細胞肺がんの成績は、3年全生存率 53 %、5年全生存率 45 %でした。
- 化学療法を併用して放射線治療を行なった限局型小細胞肺がんの成績は、2年全生存率59.2 %でした。
肺がんと診断された方へ
肺がんの治療方針は、施設により異なる場合があります。また、複数の選択肢がある場合もあります。肺がんと診断された場合には、専門の医師の説明をよく聞き、十分に納得した上で、治療法を選択されることをおすすめします。