前立腺がん
前立腺がんに対する“放射線治療”
広島大学では高精度な放射線治療に特化した広島がん高精度放射線治療センター(ハイプラック;HIPRAC)と連携し、適応となるような前立腺がん患者さんに対してはセンターでの治療を提案させていただいております。
HIPRACは放射線治療専門の医療機関であり、最先端の治療装置を駆使して、主治医の先生方と一緒に、がん治療を行っております。
下記にHIPRACでの治療の概要について添付致します。ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。
放射線治療の方針
前立腺がんはPSA検診の普及と相まって罹患率は増加傾向です。特に、高齢者に多いと言われ、前立腺がんの罹患率は男性の3位、死亡率は男性の6位です。
ただし、前立腺がんは他のがんと比べて、非常にゆっくりと進行し、また非常に予後も良好です。早期がんであれば、経過観察も治療選択肢となりえます。
前立腺がんと診断されたら、血液検査から求めるPSA値、病理学的な悪性度評価、画像所見等で正確にリスク分類し、適切な治療法を選択することが重要となってきます。
リスク分類の概要
前立腺がんに対する放射線治療は非常に効果が高く、手術による治療成績とほぼ同等と言われています。
それぞれの治療方法のメリットおよびデメリットを主治医よりお聞きになり、治療法を決定することをお勧めします。
また、前立腺がん術後の状況で、PSAが0.2ng/ml以上になった場合、PSA再発と診断されることがあります。
再発と診断され全身精査の結果、明らかな骨盤内再発腫瘤や遠隔転移病変(骨転移など)がない場合は、骨盤内の前立腺が存在した部位に残存しているであろう微小な前立腺がん組織を消滅させるために、骨盤内をターゲットにして放射線治療を行う場合があります。
広島大学病院で治療対象となる方
- 早期もしくは局所進行期の前立腺がん(T1-4N0M0)
- 骨盤内リンパ節転移陽性だが遠隔転移のない進行期の前立腺がん(T1-4N1M0)です。
- 全摘術後のPSA再発もしくは手術時の切除断端が陽性の前立腺がん(遠隔転移例を除く)
*多くの場合でホルモン治療を併用した治療となります。 - 再発された場合の前立腺がん治療
がんにより症状が出ている部分にだけ、症状を和らげる目的で放射線を照射することがあります。骨への転移による痛みなどに対する放射線治療が代表的です。
HIPRACの特色
広島がん高精度放射線治療センターでは、広島大学病院と協同して、年間多数の前立腺がんがん患者さんの放射線治療を行っており、豊富な治療経験を有しています。
前立腺がんに対する放射線治療は根治的な治療であっても術後再発の治療であっても、基本的には外来通院が可能であり、当センターは多くの患者さんにご利用いただいております。
様々な病態に対して「強度変調放射線治療 IMRT」を積極的に応用し、照射ターゲットへ線量を集中させ、かつ周囲の正常組織への影響を最小限に抑えた放射線治療を心掛けています。
当センターには3台の放射線治療器がありますが、そのうちの1台の”Vero4DRT”がバージョンアップして、新しい治療技術である強度変調歳差集光照射:通称:Dynamic WaveArc「波乗り照射」が使用可能となっています。
従来は固定された角度から放射線治療を行っていましたが、新技術が搭載された今は、「波打つような波状軌跡をたどりながら体の全方向から照射することが可能」となりました。
放射線治療器の台座(O-ring)と放射線の照射口(ガントリー)が連続的に同期しながら動きます
Dynamic WaveArc「波乗り照射」になって改善された点を以下にあげます。
- 体の全方向から効率よく放射線が照射出来るようになったので、照射時間が大幅に短縮されました。(前立腺がんの場合、1回の照射時間を8分→1分30秒に短縮出来ました。)
- 固定された角度で照射していた時と比較して、病変により集中した照射が可能となりました。
波打つように照射出来る放射線治療器は、現時点ではVero4DRTのみです。HIPRACではより正常組織に優しく、かつ効率的な放射線治療を患者様に体感していただけるように、この波乗り照射を効果的に利用していきます。
放射線治療の方法
- 広島大学病院と広島がん高精度放射線治療センターは同じ治療基準を採用し放射線治療を行っております。
- 放射線治療が必要な場合は、主治医(泌尿器科)よりご紹介頂きます。
- 前立腺がんの放射線治療は外来通院を基本とします。
放射線治療の線量や回数
前立腺に対して根治的な放射線治療を行う場合
- 通常1日1回、週5回、1回線量2 Gyで計 37-39回(総線量74 – 78 Gy)の照射を行います。
- 基本的に前立腺および精嚢を照射ターゲットにしますが、骨盤内リンパ節がある場合は、骨盤内領域も含んで照射ターゲットにします。
- 低リスク群の場合、1日1回、週5回、1回線量3Gyで計 20回(総線量60 Gy)の中程度寡分割照射を行う場合があります。
前立腺がん術後PSA再発に対して放射線治療を行う場合
骨盤部へ通常1日1回、週5回、1回線量2 Gyで計 33回(総線量66 Gy)の照射を行います。
放射線治療に要する時間
1回の治療に要する時間は10-15分程度で、実際に放射線を照射する時間は1-2分間です。
放射線治療の準備から治療開始まで
放射線治療の適応かどうかを判断し、治療の説明を行います。
便を柔らかくする薬や腸の動きをよくする下剤が処方されます。
看護師より治療にかかわる排尿・排便コントロールについて説明します。前立腺付近の直腸ガス・便が少ない状態を保つために排便コントロールを行います。
治療のイメージがつくようにビデオを視聴していただきます。
照射部位を安定させるための固定具を作成します。
排便状況について確認し、指導します。
検査と治療のスケジュールについて説明します。
MRI撮影
放射線の当て方をシミュレーションするためのCT・MRIを撮像します。
照射時と同様になるように1時間分の尿がたまった状態で行います。
固定具を装着して撮影します。
治療オリエンテーション
1回目と同様に固定具をつけてCTを撮像します。
放射線治療の流れや注意事項をパンフレットを使って説明します。
CTで前立腺の位置が安定していることを確認し、照射します。(20分程度)
治療時刻は予約制です。
通常の治療回数は37~39回です。
前立腺手術後の方は治療回数33回です。
膀胱の大きさを一定にするために治療予定時刻1時間前に排尿し、そのあとは膀胱内に尿をためておいてください。
治療終了後は紹介元医療機関と連携してフォローします。
放射線治療に伴う有害反応・注意点
治療中~治療直後
頻尿や排尿、排便時の痛み、軽度の血尿や排便時の出血が生じることがあり、痛み止めの内服や軟膏等で対応します。放射線治療が終わって、1か月程度で軽快します。
治療数か月後
百人に一人程度は血尿や血便がおきる可能性がありますが、処置が必要になることは稀です。
治療の注意点
- 膀胱の大きさを一定にするために毎回、1時間分の尿を膀胱に溜めた状態で治療します。治療予定時刻の1時間前に排尿し、以降は蓄尿します。膀胱内の容量を一定にすることで前立腺の位置を安定させ、治療効果を高めると共に、頻尿や排尿時の痛みなどの有害反応が増強しないようにするためです。
- 前立腺付近にガス、便が溜まっていると、前立腺が照射野(放射線を当てる範囲)から外れ、高い放射線量が直腸壁に当たり、排便時痛、血便などの有害反応を起こしやすくなります。そのため、照射前にレントゲン写真で体との位置合わせとガスや便の溜まり具合を確認します。場合によっては肛門からチューブを入れてガス抜きをすることがあります。また、治療開始前から、下剤を処方し、排便を調整します。
- 照射中、スタッフは治療室より出ています。操作室のモニタで常に室内を監視していますので、治療中気分が優れないとき、尿意が我慢出来ないときには、声を出す、手を振る、足を曲げるなどして合図を送ってください。
- 治療中は治療台が高くなりますので、転倒・転落防止のためスタッフの指示があるまで動かないようにご注意ください。
- 治療体位の目印として体に直接、線を書き込むこともあります。
- 治療期間中は食事、運動などの日常生活での制限はありません。毎日治療に通えるように体調を整えてください。出来る範囲で、治療前に便、ガスをしっかり出してください。