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甲状腺がん (放射性ヨード内服療法)

はじめに

甲状腺がんは年間約15,000人の方が罹り、比較的長期の経過を辿る病気です。
今回、内用療法を受けていただくにあたり、当科へご紹介された主治医先生の元で甲状腺がんの手術をされていることが前提となります。
広島大学病院は広島県において唯一本治療が可能な施設であり、豊富な経験を有しています。
ここでは、甲状腺がんに対するヨード(I)-131内用療法について説明します。

甲状腺がんの治療方針

甲状腺分化がん(乳頭がん、濾胞がん、低分化がん)と診断された方を対象としています。その上で、①アブレーション②補助療法と③遠隔転移を有する甲状腺がんの制御④甲状腺がん術後の再発病変の制御に大きく分けられます。治療スケジュールや有害反応もそれぞれ異なります。

手術前後において術後再発の中~高リスク群とされる方のうち、手術で肉眼的に病変を全て摘出された方を対象としています。その上で、以下の2通りの目的で治療を行います。

①アブレーション

アブレーションとは、焼却という意味で用いています。甲状腺がんに対する手術では微小な甲状腺細胞が体内に残存していることが多く、がん細胞を残らず摘出できている可能性が高いケースであっても、腫瘍マーカーとして活用するサイログロブリンという物質が高値になることもあり、術後の経過観察に支障がでる可能性があります。
そのため、術後の経過観察を単純化するため、体内に残存する正常甲状腺細胞を焼却(アブレーション)するための治療です。

②補助療法

補助療法とは、肉眼的に全摘出できたケースであっても顕微鏡的に体内にがん細胞が残存している可能性が高い患者さん向けに行う治療です。
不可視的な微小病変に対する治療であり、目的は再発予防あるいは再発までの期間を遅延することです。

一方、甲状腺がんと診断された際にすでに肺や骨などへの遠隔転移を認めていることは珍しくありません。また経過観察中に再発する場合もあります。その上で、以下の2通りの目的で治療を行います。

③遠隔転移を有する甲状腺がんの制御

原発巣や頸部のリンパ節の手術をした後に、残った遠隔転移病変を放射線で治療します。

④甲状腺がん術後の再発病変の制御

再発病変が手術で再度摘出できない病変に対して、放射線で制御を図ります。

広島大学病院における放射線治療の実際

ヨード(I)-131内用療法の概要

甲状腺とは甲状腺ホルモンという不可欠なホルモンを分泌する器官です。

  • 甲状腺ホルモンは濾胞上皮という細胞から産生されます。体内に残存した正常組織や後述するがん種では甲状腺ホルモンを産生しようとする性質があります。
  • 甲状腺ホルモンの原料としてヨードという物質があります。放射線を放出するように細工したヨード(I)-131というカプセル状の薬剤を服用することで、体内に残存する正常甲状腺細胞やがん細胞内に取り込まれ、その場で放射線を放出することで残存正常甲状腺細胞あるいは残存甲状腺がん細胞の死滅を図ります。
  • ヨード(I)-131の放射線の半減期は約7日程度で、自然に減衰していきます。

甲状腺はヨード(ヨウ素)を取り込んで甲状腺ホルモンを産生します。
その性質を利用してI-131内用療法が行われます。

治療スケジュール

実際の治療スケジュール(①アブレーション②補助療法)

治療日2週間前

ヨード制限食を開始します。
ヨード(I)-131ががんの病巣部に取り込まれるためには食事からのヨードの供給をストップさせる必要があります。

治療日2-1日前

治療前の最終確認として画像検査、血液検査、心電図検査を行います。
タイロゲンという注射薬を2日間に渡り筋肉注射します。

入院当日

放射線管理区域内の病室(個室)に入室いただき、ヨード(I)-131を内服します。
病室から出ることはできませんが、その他は特に制限はありません。

入院2日目

体内から放出される放射線の量を実測します。法律で定められた線量以下であれば翌日に退院可能です。

入院3日目

殆どの方は入院3日目で退院可能です。体内から放出される放射線の量が法律で定められた線量まで下がっていなければ、入院期間が延びる場合があります。

有害反応(①アブレーション②補助療法)

個人差がありますが、入院中から退院後早期に以下のような有害反応を認めることがあります。これらは一過性の症状です。

  • 悪心嘔吐、食思不振、頸部腫脹、倦怠感、唾液腺障害、味覚障害など
  • 上記有害反応に対し予防的に薬剤の服用を行います。

実際の治療スケジュール(③遠隔転移を有する甲状腺がんの制御④甲状腺がん術後の再発病変の制御)

治療日4週間前

現在服用している甲状腺ホルモン剤(チラージン)の休薬を開始します。
チラージンを休薬することで、体内にある甲状腺がんがホルモンを自力で産生しようとするため、ヨードの需要が高まります。

治療日2週間前

ヨード制限食を開始します。
ヨードは食事で通常摂取します。ヨード(I)-131が想定通りに取り込まれるためには食事からのヨードの供給をストップさせる必要があります。

治療日約1週間前

治療前の最終確認として画像検査、血液検査、心電図検査を行います。
チラージンの休薬に伴い、甲状腺機能低下が生じます。甲状腺機能低下により体調に変化があった際は治療をキャンセルする場合もあります。

入院当日

放射線管理区域内の病室(個室)に入室いただき、ヨード(I)-131を内服します。
病室から出ることはできませんが、その他は特に制限はありません。

入院3日目

体内から放出される放射線の量を実測します。法律で定められた線量以下であれば翌日に退院可能です。

入院4日目

殆どの方は入院4日目で退院可能です。体内から放出される放射線の量が法律で定められた線量まで下がっていなければ、入院期間が延びる場合があります。

有害反応(③遠隔転移を有する甲状腺がんの制御④甲状腺がん術後の再発病変の制御)

個人差がありますが、入院中から退院後早期に以下のような有害反応を認めることがあります。これらは一過性の症状です。

  • 悪心嘔吐、食思不振、頸部腫脹、倦怠感、唾液腺障害、味覚障害など
  • 上記有害反応に対し予防的に薬剤の服用を行います。
  • 上記症状の他、転移病変の状況によっては頸部腫脹や気管狭窄、放射線性肺炎などのリスクが僅かですがございます。

甲状腺がんと診断された方へ

甲状腺がんの治療方針は、施設により異なる場合があります。また、個々の状態に応じて、複数の選択肢がある場合もあります。甲状腺がんと診断された場合には、専門の医師の説明をよく聞き、十分に納得した上で、治療法を選択されることをおすすめします。